水木しげるの牛鬼

 の名残にもう一度だけ妖怪の話を。西日本を中心に「うしおに」とか「ぎゅうき」と呼ばれる妖怪の伝承があります。それぞれの地方で話の展開や姿は様々ですが、水木しげるの漫画では、巨大な蜘蛛のように描かれ、大きく角が生えた頭は、牛のようでもあり鬼のようでもあります。その恐ろしい牛鬼を鬼太郎が倒すわけですが、死体はみるみるうちに人間になっていき、今度は鬼太郎が苦しみながら牛鬼に変身してしまいます。

ぼくは小さいころこの話が怖くてたまりませんでした。恐ろしい牛鬼が常に「ぼくたちのなかの誰か」であること。倒さなければならないのに倒すと自分が当の倒すべきものになってしまうこと。いじめっ子に復讐したら自分がいじめっ子になっていた、とか考えると、なんだか他人ごととも思えません。漫画では最後に祈りに応えた古い神様が助けてくれます。倒す倒されるの常識を広げたとき、非常識にみえた祈りもひとつの手段として浮かびあがるのかもしれません。


豊平豪 2018年9月

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