『Green green glass of home』というカントリーの名曲があります。直訳すると、「故郷の青い芝生」という意味でしょうか。1965年に世界的ヒットになり、日本でも1970年代半ばに『思い出のグリーングラス』という名前で愛唱歌になりました。ご存じでしょうか?
日本語版では都会に出た若者が田舎を懐かしむ歌になっていますが、英語原曲はまったく違います。ある男が故郷を懐かしむ前半部分は同じですが、曲の最後になって、男が刑務所の独房におり、死刑を宣告されていることがほのめかされます。死といやおうなく向き合う男が強く想ったのは、最初からこの世のどこにもない故郷の風景でした。彼の妄想だけの「かつてあった」が、手触りを感じるほどに、唯一残された希望として生々しく立ち上がった。
本当はなかった「かつて」を「まだない」未来へと夢想する。おそらく僕らも日常的にこういうことを繰り返して人生を送っているのでしょう。だからこそ、この歌は人の心に触れることができたのではないでしょうか。
豊平豪 2016年6月
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