フィールドワーク情景10

 旅先でみた景色がどうにも目に焼き付いてしまうことがあります。先日シンガポールを旅していたとき。散歩の途中で雑居ビルに何気なく足を踏み入れました。全体が把握できないほどに広いフロアがいくつかの小部屋に仕切られています。廊下には弱い照明しかなく、各部屋から強い光が漏れ出ています。

細長い部屋をのぞき込んでみると、何人もの若い女性たちが壁を背もたれにして座り、順番待ちをしています。隣の部屋も、そのまた隣も同じ光景の繰り返し。どうやらすべて家政婦業の仲介所のようです。

シンガポールは男女ともに働ける「先進的」な国として知られていますが、それを可能にしているのが出稼ぎ移民女性による家事や育児の代行業です。勤務先の斡旋をまつ彼女たちには笑みもなく、無表情に順番待ちをしている様子だけがありました。ビルの外には小奇麗なサラリーマン、サラリーウーマンたちの群れ。そのギャップが僕にはなんとも鮮やかだったのです。

豊平豪 2018年2月

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