10月末から11月頭の2週間、僕は西川さんと共にメキシコにいました。地球の裏側です。乾季に入ったばかりのメキシコはひたすら空が広く、からっとした空気で満ちていました。
空港に降り立ったとき、気になったのが「匂い」です。柑橘系の、シトラスの香りとでもいうのでしょうか?鼻につんとくる匂いです。タクシーに乗っても、ホテルにいっても、その香りは僕らについてまわりました。洗剤の匂いだと思います。衣服からというより、床や壁、シートに染みついた匂い。
プルーストの長編小説『失われた時を求めて』では、マドレーヌの匂いで蘇った記憶を入り口に壮大な物語がスタートします。匂いから生々しく思い出がよみがえることがあります。
予感として、僕は写真よりも、文章よりも、おそらく匂いで今回のメキシコを思い返す気がします。「記録」を匂いで紡ぐのは至難の技ですが、「記憶」は言葉や映像だけでなく匂いでも紡がれているのです。
豊平豪 2014年12月
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