息を聴く

 ドキュメンタリー映画『えんとこの歌 ー寝たきり歌人・遠藤滋ー』を観た。伊勢真一監督の最新作で、これから各地で上映会が始まる。一生考え続けるほどのメッセージを贈ってくれたこの作品について、どうしても伝えていきたい。この映画は1999年の映画『えんとこ』の続編にあたる。重い脳性麻痺のために35年間寝たきりの暮らしを続けている遠藤さんと彼の介助者たちの姿を追い続けるドキュメンタリーである。

 「言ひたきを無声音にて一心に言へども単語も言ひ切れずをり」

遠藤さんの上唇に介助者が指を添えて固定する。かすれた声らしき音が途切れつつも発せられる。介助者は顔を近づけて耳を遠藤さんの口元に添える。なぞるようにして遠藤さんの言葉を繰り返し確かめる。映画を観ているぼくには聞き取れない。この果てしない努力がお互いの間になければ、何も生まれてこないのだ。「聴く」ということ、それを強く考え直すシーンであった。


西川勝 2019年7月

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