空を見上げる

 先月、大阪でドキュメンタリー映画『妻の病 ーレビー小体型認知症ー』を上映し、監督の伊勢真一さんと対談をした。世界アルツハイマーデー月間の行事である。上映前に監督と昼食を共にして雑談した。

 「映画の仕事の前は、大工になろうと思って修行してたんですよ。ある日、親方に呼ばれて、大工は向いていないと言われました」何かを懐かしむような表情で監督は続けた。「お前、ときどき空をポカーンと見上げてるだろう。あれじゃ駄目だってね」

 一呼吸置いて、「で、大工は諦めて、映画の仕事を手伝うようになったんです。そしたらね、先輩たちがぼくを褒めてくれるんです。ロケ時の天気が気になるから、よく空の様子を見てるんだなって」監督はいたずらっぽく微笑んだ。

 秋空はすがすがしく、思わず空を見上げたくなる。雲ひとつない青空の向こうには何があるんだろう。人生を変えてしまう秘密があるかもしれない。


西川勝 2019年10月

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