とつとつケチャ

 砂連尾さんが、ケチャをすると言う。ケチャはバリ島のダンスだ。ぼくが昔、夜学の学生だった頃、宗教学の授業でケチャの話を聞いた。バリ島の儀礼で、踊りの中、男たちが「チャ、チャ、チャ」と繰りかえす。その声が幾重にも重なり、16ビートのリズムを刻む。16ビートというのは、ふつうには人間の声では出せないもので、それを聞き続けるとトランス状態になって、何かに憑依される。トランス状態の男たちはクリスという短剣を自分の胸に突き刺すけれど怪我もしない。そんな不思議な話だった。先生にバリ島調査に誘ってもらったが、当時の僕には夢だった。それから40年、とつとつでケチャに再会した。

 ほとんど何の説明もなしに、ケチャを試みる。何ともいえない出来だろうけど、部屋を暗くしてライターの灯りだけを頼りにケチャしたことが、後々まで尾を引いて胸に残っている。砂連尾さんのワークは、いつだって後から効いてくるボディ・ブローだ。


西川勝 2019年1月

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