午前3時半の星空

 年上の友人から便りが来た。白内障の手術を受けて、驚くほど見えるようになったという。ことに夜空の星の多さに、帰り住んだ古里への誇りと愛が増したらしい。

 三重県熊野市に移り住んだ老夫婦が営む農家民宿に泊まってきた。「何もないところですが、ゆっくりしてください」とご主人。手作りの野菜料理をたっぷり頂いて、早くから寝てしまった。午前3時半、目ざめて庭に出た。満天の星とはこれかと納得した。しばらく眺めていると、さらにかすかな星の光が届けられる。来てよかったと思う。

 朝食のとき夜中の感動を伝えると、ご主人は「午前3時頃の星は、何にもまして澄んでいますからね」と応える。夜の底に輝く星の数々、日中の太陽で隠されていた小さな宝石群が姿を見せる。実は昼の空にも星は存在するが、気づかないだけだ。歳を重ねて人生の輝きが衰えたときにこそ、見えてくる星空もあるだろう。そう思うと、これからの楽しみが増えた。


西川勝 2019年4月

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