久しぶりに読んだ本

 ぼくは1957年に生まれた。その年のノーベル文学賞を受賞したアルベール・カミュの著書『シーシュポスの神話』(清水徹訳、新潮文庫)を、はじめて読んだのは15歳だった。難しくてよく分からなかったが、わずか7頁の「シーシュポスの神話」には胸を撃たれた。

 休みなく岩を転がして山頂まで運び上げると、必ず転がり落ちてしまい、また同じ労苦を死ぬまで繰りかえさねばならない。これがシーシュポスが神々から受けた刑罰であった。絶望しないわけがない。しかし、彼は沈黙の悦びのうちに山を下っていく。不条理な運命を侮蔑によって乗り越えるのだ。不敵な笑みを浮かべている彼は英雄だ。

 さて、久しぶりに読んでみると、若い頃よりもずっと腹の底に響くような感動と励ましを感じる。冒頭のエピグラム「ああ、私の魂よ、不死の生に憧れてはならぬ、可能なものの領域を汲みつくせ」というピンダロスの言葉が、ぼくの老いを支える心棒になることを強く望んでいる。


西川勝 2019年6

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