ガラス越しのデュオダンス

 透明なガラス戸の向こうで、砂連尾さんは静かに微笑んでいる。ダンスワークショップの終盤になって「ぼくはベランダの方に行きます。手や腕の動きを合わせてみましょう」と言い残してホールから出て行ったのだ。ガラス戸を挟んで参加者と砂連尾さんが見つめ合う。やがて、砂連尾さんがゆっくりと腕をガラスの方へ伸ばしてくる。ホールで車椅子に乗っていた男性も腕を伸ばしてガラスに近づいていく。二人の間に言葉はない。手の動きだけを合わせるはずが、身体全体の動きにまで協調が拡がっていく。砂連尾さんの顔がガラスに触れるほどになると、男性は車椅子から立ち上がっていた。二人は見つめ合うだけでなく、ガラス越しに互いの頬を合わせようとしはじめた。不思議な光景だった。ガラス越しのデュオダンス、チークダンスに周りの参加者の目が釘付けになる。

 ホールに戻った砂連尾さんは「どうしても越えられないと、ずいぶん大胆に相手に近づくようになるんです」と、ぼくにつぶやいた。

西川勝 2014年11月

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