ある中学校の入学式、校長が式辞で「小学生までのことは忘れて、この3年間で将来の自分について真剣に考えてほしい。リセットして、前向きに新しく始めるのです」と言っていた。
春は年度の始めとして、いろんなことが新たに開始される。それは分かるが、過去を忘れて将来にのみ希望を託するという生き方は、なんとも薄っぺらい決意主義だと思う。人生はゲームじゃない。リセットなんかできるわけがない。
大切なことは未来にあると考えることは、現在の自分を軽んじ、過去の出来事の意味を考え直すことを放棄することだ。自分がこれまで生きてきたことを抜きにすることは、まるで影のない人間になってしまうことと同じではないだろうか。それでは幽霊だ。
春の明るさや暖かさに心が弾むのは、長い冬を耐えてきた者にだ。芽吹き花咲く種たちは春になる前から地中で生きていた。ずっとずっと昔、この世にやってきた不思議を忘れてはいけない。
西川勝 2018年4月
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